「夏休みが終わるのに、大学に戻る気持ちになれない…」
「このまま秋学期を迎えても、学び続ける意味が見出せない…」
そんな風に、「大学を辞める」という選択肢が頭をよぎり、一人で苦しんでいませんか?
こんにちは、現役大学職員のシュウです。
毎年この時期になると「退学届」を手に、私の窓口を訪れる学生がいます。その決断に至るまで、一人でどれほど悩み、苦しんだかを想像すると、いつも胸が痛みます。
しかし、それ以上に私が心を痛めるのは、学生が「休学」という、未来の可能性を残すための重要な選択肢について、そのメリットと、特に経済的なリスクを正確に知らないまま、「退学」という後戻りできない決断を下してしまうことです。
秋学期が始まる前の「今」だからこそ、知っておいてほしいことがあります。この記事では、あなたの人生を守るためのセーフティネットである「休学」や、その他の選択肢について、大学職員の視点から、その光と影の両面を徹底的に解説します。
読み終える頃には、あなたは冷静さを取り戻し、自分にとって本当に最善な道は何かを判断するための、正確で現実的な知識を手にしているはずです。
「休学」「退学」「除籍」はどう違うのか?
まず、この3つの言葉の制度上の決定的な違いを、比喩ではなく事実として理解しましょう。これらの定義や扱いは大学の「学則」によって異なるため、必ずご自身の大学の規定を確認してください。
- 「休学」とは: 大学に籍を置いたまま、一時的に修学を中断する制度です。病気療養や経済的理由など、やむを得ない事情がある場合に利用され、理由が解消すれば復学が保証されています。
- 「退学」とは: 自らの意思で大学との在籍関係を完全に終了させ、学生の身分を失うことです。一度退学すると、同じ大学に戻るには再度入学試験を受ける必要があります。
- 「除籍」とは: 学費の長期未納や在学年限の超過などを理由に、大学側の判断で学籍を抹消されることです。学生本人の意思に基づかない点で「退学」とは根本的に異なります。
比較項目 | 休学 | 退学(中途退学) | 除籍 |
---|---|---|---|
意思の主体 | 学生本人 | 学生本人 | 大学側 |
大学との関係 | 在籍したまま | 在籍しなくなる | 在籍しなくなる |
復学 | 可能(保証されている) | 不可(再入学・編入試験が必要) | 原則不可(大学により再入学の道も) |
最終学歴 | 〇〇大学 在学 | 高等学校卒業 | 高等学校卒業 |
※退学・除籍の場合、最終学歴は「高校卒業」に戻ります。履歴書には「〇〇大学 中途退学」と記載する義務があり、これを怠ると学歴詐称と見なされる可能性があります。
「休学」という選択肢の現実を深掘りする
「休学」は、未来のために一度立ち止まるための重要な制度です。しかし、その利用には現実的な課題も伴います。
どんな理由で休学できる?
経済的理由、病気・怪我、海外留学など様々な理由が認められます。実は、文部科学省の最新の調査(令和4年度)によると、休学理由で最も多いのは「心身耗弱・疾患」で全体の33.0%を占めています。あなたがもし心身の不調で悩んでいるなら、それは決して特別なことではなく、多くの学生が直面している問題なのです。
【最重要】お金の話:休学中の費用と見過ごせないリスク
「休学=無料」という考えは、特に私立大学の学生にとっては大きな誤解です。さらに、見落としがちな重大な経済的リスクが存在します。
1. 休学中の学費と「在籍料」
- 国立大学: 授業料が全額免除され、在籍料もかからないのが一般的です。ただし、申請時期が遅れると当該学期の授業料が発生する場合があるため、必ず事務室に確認してください。
- 私立大学: 約8割の大学が何らかの費用を徴収しています。授業料は免除・減額されても、学籍を維持するための「在籍料」として、年間10万円~20万円程度の費用がかかるのが一般的です。これは経済的に困難な状況にある学生にとって、非常に大きな負担となり得ます。
2. 【警告】休学で停止する奨学金と、開始されるローン返済
この記事で最も伝えたい、そして多くの学生が見落とすリスクがここにあります。
- 奨学金の停止: 日本学生支援機構(JASSO)をはじめ、ほとんどの奨学金は休学期間中は支給が停止されます。速やかに大学の担当窓口で「休止」の手続きが必要です。これを怠ると、後で返金を求められます。生活費を奨学金に頼っている場合、この収入源が途絶えることを前提に計画を立てなければなりません。
- 教育ローンの返済開始: 在学中は利息のみを支払う「元金据置型」の教育ローンを利用している場合、休学によって卒業が延びても、当初の卒業予定年月を過ぎると元金の返済が始まるのが原則です。休学中に予期せぬ返済義務が発生する可能性があるため、必ず金融機関に確認してください。
「退学」の前に検討すべき、他の選択肢とその現実
「今の環境が合わない」と感じる場合、大学内に他の道が用意されているかもしれません。しかし、これらの選択肢には高いハードルとリスクが伴います。
選択肢①:転学部・転学科(今の大学内で移籍)
今の専門分野への興味を失った場合、学内で別の学部・学科へ移籍できる制度です。出願時に30,000円~35,000円程度の「検定料」が必要になるのが一般的です。
【知るべき現実】
この制度は、希望すれば誰でも利用できるわけではありません。多くの場合、募集人数はごく僅かで、出願には極めて高い成績(GPA)が求められます。さらに筆記試験や面接が課されることもあり、競争率は非常に高いのが実情です。安易な期待は禁物です。
選択肢②:通信制課程への転籍(学び方を変える)
対面授業や人間関係が負担な場合、同じ大学や別の大学の通信制課程へ移る選択肢もあります。学費は通学課程より抑えられますが、入学金は必要です(例:慶應義塾大学で30,000円、早稲田大学では200,000円)。
【最重要リスク】
通信制大学の平均卒業率は約10%~11%程度と、通学制(80%以上)に比べて著しく低いのが現実です。これは、通信教育が極めて高度な自己管理能力と学習意欲を要求するためです。もしあなたが今、修学意欲の低下に悩んでいるなら、より厳しい自己規律が求められる環境に飛び込むことは、さらなる挫折に繋がる危険性をはらんでいます。
「退学」という決断の前に知っておくべきこと
上記の選択肢を慎重に検討してもなお、「退学」を選ぶ場合の現実についてお話しします。
退学手続きのリアル:「安全装置」としての面談
退学には、学生証の返却といった事務手続きに加え、多くの場合、指導教員や保証人(親)との面談が必須となります。保証人の署名・捺印も求められます。
これは、大学が学生を思いとどまらせようとしているだけではありません。一時的な感情で人生を左右する重大な決断を下すことを防ぐための、意図的に設けられた「手続き的な安全装置」なのです。このプロセスを怠り、学費を納めないまま放置すると「除籍」処分となるため、必ず正式な手続きを踏んでください。
結論、秋学期が始まる前にあなたがすべきは「正確な情報に基づく相談」
どんな決断を下すにせよ、一人で抱え込まず、まずは大学に相談してください。その際、この記事で得たような現実的な知識を持って臨むことが重要です。
誰に、何を相談すればいい?
問題の種類によって、頼るべき専門家がいます。
- 第一歩:指導教員・ゼミの先生: 最も身近な相談相手です。
- 手続きと規則の専門家:学部・学科の事務室(教務課): ここで休学・退学の正確な手続き、あなた自身の大学の在籍料、奨学金の扱いについて一次情報を得られます。
- 心の専門家:学生相談室・カウンセリングセンター: 根本的な悩みの解決をサポートしてくれます。
- 将来の専門家:キャリアセンター・就職課: 「大学中退」という経歴での就職活動や、その後のキャリアについて具体的なアドバイスをもらえます。
親への伝え方
「辞めたい」と感情的に伝えるのではなく、「秋学期から休学して、経済的な影響も考慮しながら考えたい」「転学部という道もあるが、非常に厳しいらしい」と、この記事で得た知識を元に、論理的かつ建設的に提案することが、無用な衝突を避ける鍵です。
まとめ
- 「休学」は在籍したままの休み、「退学」「除籍」は学籍を失い最終学歴が「高卒」になること。
- 休学中は、私立大学だと年間10万円以上の「在籍料」がかかることが多い。さらに奨学金は停止し、教育ローンの返済が始まるリスクがある。
- 「転学部」は競争率が非常に高く、「通信制」は卒業率が極めて低いなど、他の選択肢にも高いハードルとリスクがある。
- どんな決断を下すにせよ、最初の行動は、まず自大学の「学則」を確認し、その上で大学の専門窓口に「相談」することである。
あなたが今抱えている悩みは、決してあなた一人だけのものではありません。大学には、あなたをサポートするための専門家がたくさんいます。
今すぐ退学届を出す必要はありません。まずは、あなたの大学の公式サイトで「学則」や「履修要覧」を開き、「休学」や「退学」に関する項目を自分の目で読んでみることから始めてみませんか?
正確で、時には厳しい情報こそが、あなたを不要な焦りや絶望から救う、最初の光になります。
【次のステップへ】夏休み明けの不安をすべて解消する
この記事では「休学」に絞って解説しましたが、夏休み明けには他にもやるべきこと、知っておくべきことがたくさんあります。
以下のまとめ記事では、成績の話はもちろん、「オリエンテーション」「休学の手続き」「進路懇談会」など、あなたの不安をすべて解消する情報を網羅しています。ぜひ、あわせてお読みください。
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