医療費控除は、1年間に支払った医療費が一定額を超えたときに、所得から差し引ける制度です。「医療費が10万円を超えれば、超えた分がそのまま戻る」制度ではありません。対象になる費用、保険金などの差引き、所得に応じた基準額を整理してから申告します。
先に結論
- 対象期間は、その年の1月1日から12月31日までに実際に支払った医療費です。
- 自分だけでなく、生計を一にする配偶者や親族のために支払った医療費も集計できます。
- 控除額は「支払った対象医療費-補てん金-基準額」で計算し、最高200万円です。
- 申告時は医療費控除の明細書を添付し、領収書は原則5年間保管します。
情報確認日:2026年8月9日
法令等の基準:国税庁タックスアンサー掲載の「令和7年4月1日現在法令等」。本記事は日本の所得税に関する一般的な制度を説明しています。
医療費控除を受けられる条件
国税庁が示す基本要件は、次の2点です。
- 納税者が、自分または自分と生計を一にする配偶者・その他の親族のために支払った医療費であること
- その年の1月1日から12月31日までに支払った医療費であること
診療を受けた日ではなく、実際に支払った年で判定します。年末時点で未払いの医療費は、後に支払った年の医療費控除の対象です。
「生計を一にする」は同居だけで決まらない
同居家族に限らず、生活費や学費、療養費などを継続して負担している家族が含まれる場合があります。ただし、医療費控除を申告するのは、原則としてその医療費を実際に支払った人です。家族関係や送金状況など個別事情で判断が分かれる場合は、税務署へ確認してください。
医療費控除額の計算方法
医療費控除額 = 実際に支払った対象医療費 − 保険金などで補てんされる金額 − 基準額
控除額の上限:200万円
基準額は一律10万円ではない
基準額は原則10万円です。ただし、その年の総所得金額等が200万円未満の人は、総所得金額等の5%が基準額になります。
- 総所得金額等が200万円以上:基準額は10万円
- 総所得金額等が200万円未満:基準額は総所得金額等の5%
たとえば総所得金額等が150万円なら、基準額は7万5,000円です。対象医療費から補てん金を差し引いた額が9万円の場合、控除額は1万5,000円となります。
控除額がそのまま還付されるわけではありません。医療費控除は所得控除なので、還付の有無や金額は、所得・税率・源泉徴収税額・ほかの控除などで変わります。
保険金や高額療養費は、対象となった医療費から差し引く
入院給付金、高額療養費、家族療養費、出産育児一時金など、医療費を補てんするために受け取った金額は差し引きます。ただし、差し引く額はその給付の目的となった医療費が上限です。補てん金がその医療費を上回っても、余った分をほかの医療費から差し引く必要はありません。
医療費控除の対象になる費用
基本的には、病気やけがの診療・治療、療養のために通常必要な費用が対象です。
- 医師・歯科医師による診療や治療の費用
- 治療や療養に必要な医薬品の購入費
- 治療目的の、あん摩マッサージ指圧師・はり師・きゅう師・柔道整復師による施術費
- 一定の介護保険施設・居宅サービスの自己負担額
- 通院のために通常必要な電車・バスなどの交通費
- 入院時の通常必要な部屋代・食事代
- 医師の治療に直接必要なコルセット、義歯、補聴器などの費用
対象にならない主な費用
- 健康増進や病気予防を目的とするビタミン剤・サプリメント
- 疲労回復や体調管理を目的とするマッサージ
- 美容目的の治療・歯列矯正
- 通常の健康診断・人間ドックの費用
- 自家用車で通院した際のガソリン代・駐車料金
- 公共交通機関を利用できる状況でのタクシー代
- 医師などへの謝礼や、家族へ支払った付添料
健康診断で重大な病気が見つかり、そのまま治療を受けた場合など、例外的に診断費用が対象となることがあります。また、タクシー代も、病状や交通事情から公共交通機関を利用できない場合は対象となる可能性があります。名称だけでなく、治療との直接的な関係で判断します。
必要書類と領収書の保管
- 医療費控除の明細書:医療を受けた人・病院や薬局ごとに支払額などを集計します。
- 医療費通知:一定の記載事項を満たす通知を添付すると、明細書の記載を簡略化できます。
- 給与所得の源泉徴収票:申告書への添付・提示は不要ですが、申告書作成時に内容が必要です。
- 還付先口座や本人確認に必要な情報:e-Tax・書面など提出方法に応じて準備します。
領収書そのものは原則として申告書に添付しません。ただし、税務署から提示や提出を求められる場合があるため、確定申告期限等から5年を経過する日まで保管します。医療費通知に記載されていない交通費や年末分などは、領収書・交通費の記録から明細書へ追加します。
医療費控除の申告方法
- 対象年中に支払った医療費を、医療を受けた人・支払先ごとに整理する
- 入院給付金、高額療養費などの補てん金を対応する医療費ごとに確認する
- 医療費控除の明細書を作成する
- 源泉徴収票などから確定申告書を作成する
- e-Tax、郵送、税務署への持参などで提出する
会社員など確定申告義務のない人が医療費控除で還付を受ける場合、還付申告は対象年の翌年1月1日から5年間提出できます。通常の確定申告が必要な人は、原則として翌年3月15日までに申告します。
セルフメディケーション税制との違い
セルフメディケーション税制は、一定の健康診査や予防接種などを行った人が、対象医薬品を購入した場合に利用できる医療費控除の特例です。国税庁の現行案内では、2026年12月31日までの購入費が対象期間とされています。
- 対象医薬品購入費から1万2,000円を差し引いた額を控除
- 控除額の上限は8万8,000円
- 通常の医療費控除と同じ年に併用できない
- 一度どちらかを選択して確定申告すると、更正の請求や修正申告で別制度へ変更できない
医療費と対象医薬品の購入費の両方がある場合は、申告前にそれぞれの控除額を計算して比較します。
よくある質問
医療費が10万円を超えないと申告できませんか?
総所得金額等が200万円未満の人は、総所得金額等の5%が基準額です。そのため、対象医療費が10万円以下でも控除を受けられる場合があります。
家族の医療費をまとめて申告できますか?
自分と生計を一にする配偶者や親族のために支払った医療費は対象になり得ます。誰が支払ったか、生計が一かどうかを確認してください。
領収書を紛失した場合はどうなりますか?
医療費通知に必要事項が記載されている範囲は、通知を利用して明細書の記載を簡略化できます。それ以外は支払先へ再発行の可否を確認してください。通院交通費は、日付・経路・利用者・金額を記録しておきます。
確定申告が不要な会社員でも医療費控除を使えますか?
源泉徴収された所得税が本来の税額より多くなる場合は、還付申告で医療費控除を適用できます。確定申告の要否は、会社員でも確定申告が必要になるケースも確認してください。
まとめ
医療費控除は、対象医療費から補てん金と基準額を差し引いた金額を所得から控除する制度です。まず家族分を含む支払記録を集め、対象・対象外を分け、補てん金を対応する医療費ごとに整理しましょう。
領収書が多い場合は、国税庁の医療費集計フォームや確定申告書等作成コーナーを使うと入力を整理できます。個別の治療費が対象になるか判断できない場合は、所轄税務署または税理士へ確認してください。
参照した一次情報
- 国税庁「医療費を支払ったとき(医療費控除)」
- 国税庁「医療費控除の対象となる医療費」
- 国税庁「セルフメディケーション税制と通常の医療費控除との選択適用」
- 国税庁「還付申告」
- 国税庁「医療費集計フォーム」
本記事は一般的な制度の説明を目的としており、個別の税務判断や還付額を保証するものではありません。法改正や個別事情により扱いが異なる場合があります。